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【新幹線の“健康診断”に密着】福井・敦賀車両基地でミリ単位の異常も見逃さない検査の全貌
2024年3月16日、福井県内に延伸した北陸新幹線。その終着駅・敦賀の先に、新幹線の検査場「敦賀車両基地」がある。ミリ単位の異常も見逃さない新幹線の“健康診断”に、メディアとして初めて潜入した。
◆1日50人から60人が車両基地で働く
北陸新幹線・敦賀駅から南に約2キロ、白い巨大な建物が敦賀車両基地だ。JR西日本の新幹線「W7系」は12両編成で全長約300メートル。それを収容する検査庫は500メートルにも及ぶ。
敷地内では新幹線が次々と出入りする。目の前を通過する巨大な車両に圧倒される。
案内してくれたのは、検査担当の矢野貴裕さん(福井市出身)。
敦賀車両基地では3日に1回「仕業検査」が行われ、作業時間は午後9時から11時ごろ。車両基地内では1日、50人~60人が働いている。検査は「床下」「屋根上」「客室内」の大きく3つに分けられ、約1時間10分の時間内に12両編成すべてをチェックする。
◆ブレーキパッドの厚みは目視で分かるよう訓練
最初に行うのは、車輪やブレーキなどを調べる「床下検査」だ。ライトで照らしながら、異常がないかを確認していく。
1車両のチェック項目は40ほどあるが、かける時間は1分ほど。猛スピードで進めていく。「この時間をオーバーすると、限られた時間で検査を終えることはできなくなる。検査の遅れは運行の遅れにもなるので」と矢野さんは話す。ブレーキパッドは厚さ5.5ミリ以上が必要だが、目視で分かると話す。
矢野さん:
最初は目視では厚さが分からず、ものさしで一つ一つ測っていました。ただ、どうしても時間がかかってしまうので、パッと見て5.5ミリ以上あるかを判断ができるように訓練しました。
◆降雪地帯ならではの機器も
新幹線の顔、先頭車両には「スノープラウ」と呼ばれる雪かき装置がある。降雪地帯を走る北陸新幹線ならではの機器で、走行中に線路にたまった雪を外へかき分ける。
スノープラウの下にある黒いゴム状の補助排障器は、車輪の損傷や脱線を防ぐため、異物を線路外へ除去する。矢野さんは「どれも異常を見逃すことができない機器ばかり。検査に神経をとがらせている」と力を込める。
続いて「屋根上検査」へ。主に、架線から車両に電気を取り込む「パンタグラフ」を調べる。ただ、最初に向かったのは運転室。室内のスイッチを操作すると、車両の電気が一斉に消えた。「架線から電気が供給された状態なので、電源を落としました。車両の上を点検するには、電気の供給を止める必要がある」と説明してくれた。
◆作業員を守る“命鍵”
架線には2万5000ボルトの高圧電流が流れており、これを取り込むことで新幹線の動力源としている。高圧電流が流れる架線に近づくと、触れずとも感電死するリスクがある。検査員の安全を守るため、屋根上検査の前には、必ず車両への電気の供給を止める。
安全対策はほかにも。その一つが「命鍵(いのちかぎ)」だ。屋根上につながる階段前には扉があり、通常は鍵がかかっている。扉にささる命鍵は10本。命鍵を抜くと扉が開くが、同時に架線に流れる電気もストップする。
さらに、鍵を抜いた状態では、間違えて架線への通電ボタンを押しても電気が流れないようになっている。こうすることで作業者の命を守る役割をしているのだ。
扉を抜けて、屋根上検査へ。先ほどまで2万5000ボルトの電流が通っていた架線にフックをかけ、検査を始めた。パンタグラフは架線と接しており、走行に伴いすり減るため、既定の厚さを保っているかチェックする。
使うのはコの字型の計測器。厚さが22ミリを下回った場合、新品と交換する。
新幹線の高さは約3.6メートル。局面になっていて滑りやすいが、1車両2分程度で検査を進める。命鍵をしっかり閉めて、終了だ。
◆客室内も念入りにチェック
最後は車両の中に入り、「客室内」の検査。ここでも40項目近くを、歩きながら素早くチェックしていく。空調の温度を体感で確認。座席の枕の設置状況や車内の案内表示器に傷がないかもチェックしている。
トイレや洗面台などの水回りなども確認する。客室内では清掃作業が同時に進行することもあり、作業の邪魔にならない配慮が必要だという。
こうしてすべての検査が終了した。
検査後、矢野さんは「お客様が定刻通り目的地にたどり着けるよう全検査、全力で取り組んでいます。ぜひ安心して乗っていただきたい」と話す。
1973(昭和48)年に国の整備計画が決定してから半世紀あまり、ようやく福井まで新幹線が延伸した。当面の終着駅・敦賀にある車両基地では、ミリ単位の異常を見つけ出す検査員が安全な運行を支えている。
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